仙台高等裁判所 昭和50年(ネ)471号 判決 1980年5月30日
亡佐々木松次郎訴訟承継人
控訴人
佐々木洋介
右訴訟代理人
岩間幸作
被控訴人
中村久一郎
右訴訟代理人
中村潤吉
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一職権調査の結果によれば、次の事実を認めることができる。
1 本件の控訴人を原告(亡佐々木松次郎相続人)、中村鉄五郎を被告とする盛岡地方裁判所昭和三八年(ワ)第一四七号山林立入禁止並びに損害賠償等請求事件につき同裁判所は昭和五〇年七月二一日終結した口頭弁論に基づき同年一一月二六日本件係争地と同一の山林が原告(本件控訴人)の所有であることを確認する旨の判決を言渡した。
2 中村鉄五郎は右訴訟係属中の昭和四八年九月一四日に死亡したが、訴訟代理人があつたため訴訟手続は中断せず、受継手続もなされないまま右の判決言渡となり、昭和五〇年一二月一日右訴訟代理人に判決正本が送達された。同訴訟代理人は控訴についても特別の委任を受けていたため、なお訴訟手続は中断せず、控訴提起期間の経過により同月一六日右判決が確定した。
3 被控訴人は中村鉄五郎の二男であり、鉄五郎の妻中村タン、長女菊池キクノ、三男中村又三、二女佐々木ハナ、四男中村久四郎、五男中村高光、三女鴇田ミヤとともに鉄五郎の財産に属した一切の権利義務を相続承継した(鉄五郎の長男松之亟は昭和二一年一〇月一五日死亡しており、その代表相続人は存在しない)。
二前記訴訟事件の被告中村鉄五郎は訴訟係属中に死亡したものであるから、訴訟代理人は鉄五郎の相続人の代理人として訴訟を続行したことになり、右判決の真実の被告は受継すべき相続人である。右判決により訴訟の口頭弁論終結時(昭和五〇年七月二一日)において本件係争地が右事件の原告である本件控訴人の所有であることが確認されたのであるから、鉄五郎の相続人である被控訴人は右判決の既判力により、前訴の口頭弁論終結後にその原因を生じたものでないかぎり、本件係争地が控訴人の所有であることを争うことはできないわけである。被控訴人は、本件係争地の所有権を時効により取得した被控訴人固有の権利は別件における鉄五郎の立場とは全く別個のものであり、別件判決の既判力は本件に及ばないと主張するが、独自の見解であつて採用の限りでない。
三よつて、本件係争地につき昭和三〇年一一月八日の売買もしくは昭和三二年一月二八日または昭和三六年一月二三日に完成した取得時効によりその所有権を取得したことを前提として、控訴人に対し本件係争地への立入および立木伐採の禁止を求める被控訴人の請求は理由なきに帰するので、これを認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取消して被控訴人の請求を棄却することとし、民事訴訟法三八六条、九六条、八九条に従い主文のとおり判決する。
(田中恒朗 武田平次郎 小林啓二)